現代人は歯並びが悪いと聞いたことはありますか?
2022年の日本で11歳から14歳の小児を対象にした報告によると、矯正治療をすでに行なっている割合が約15%、矯正治療が必要な歯列不正を持つ割合が約35%いたという結果でした[1]。
この調査からは、約半数の小児が矯正治療が必要な状態であったと言えるかと思います。
歯列不正は昔から多かったわけではなく、狩猟採集を行なっていた石器時代の人類の歯並びは歯列不正が少なかったとする報告があります[2]。
そもそも、なぜ歯列不正は起こるのでしょうか。
歯列不正は遺伝要因と環境要因で決まると言われています。
遺伝要因とは、個体の形質や性質が、その個体の遺伝子情報によって決定されることを意味します。
例えばもともと顎が大きい、歯が大きい、形が不正である、先天的な欠損がある、といったものです。
これらは生まれ持ったものであるため、変えることができません。
一方、環境要因とは、生物が生息する環境に存在する物理的、化学的、生物学的、社会的、文化的な要素や条件のことを指します。
これは人間が生き、成長していく上で関わっていくありとあらゆるものが該当します。
お口の周りでも、食事の形態や頻度、内容、発音や嚥下、呼吸、噛み合わせの癖や頬杖や寝る姿勢など、さまざまなものが関係します。
すでに起こった歯列不正を治そうとした場合、歯科では矯正治療を行います。
歯にボタンをつけてワイヤーを通したり、マウスピースを使う矯正がありますね。
これらの治療ももちろん大切なものですが、そもそも歯列不正が起きないように予防する方法はないのでしょうか。
遺伝要因に対して私たちはアプローチすることはできません。
しかし、環境要因であれば私たちは改善をすることができます。
歯並びが悪くなるような癖や習慣などを把握し、気づきやトレーニングによってそれを正していくというものです。
私たちはこれらを総称して、MFT(Myofunctional Therapy)、口腔筋機能療法と呼んでいます。
例えば、普段お口がポカンと開いていることが多い場合、①唇が歯を内側に押す力が弱まり、②舌が上あごについていない、という状態になります。
すると、①により出っ歯になったり、②により下の歯が前に出てきたり、という問題が起きてきます。
これらの問題が起きないように、普段の生活の中でお口ポカンを改善するための訓練を行うということです。
歯並びにとってあまり良くない習慣について、下に例を挙げます。
1、くいしばり
2、飲み込む時に舌が歯と歯の間にある
3、常に口で呼吸している
4、お口がポカンと開いている
5、発音する時に変な舌の動きをする
6、指しゃぶりが長く残る
7、頬杖やうつ伏せ寝など、歯に力がかかる癖がある
8、舌を異常に動かしてしまう
9、舌の力が弱い
10、片側でばかり食事をする
11、咬む力が弱い
12、唇を噛む癖がある
これらはあくまで例ですが、こういった習慣が歯並びに影響を与えることがあります。
では、これらの習慣を見つけたときにどうしたら良いのでしょうか。
多くの習慣は無意識に行うことが多いので、指摘をすることで改善することがあります。
まずは好ましくない習慣を自分の意識で改善できるか試してみましょう。
もし指摘するだけではなかなか改善しない場合は、歯科医院でのMFTを行うことも有効です。
改善したい習慣に対して、知識を得てトレーニングを行うことで改善していきます。
それでも改善しない場合は、装置を使った矯正の治療を行うことになります。
きちんとした診断を行い、適切な治療計画のもと診療を行うことで、個人に合った正常なかみ合わせを獲得していきます。
最後に一つ、完璧なかみ合わせというものは理論上は存在しますが、全ての人が完璧なかみ合わせを目指す必要はありません。
もともと遺伝要因が違う訳ですから、皆が同じになるはずがないのです。
噛む、飲み込む、発音する、呼吸するといった機能を十分備え、見た目について許容できるものであれば、それは矯正を行わなければならないというものではないのです。
お口というものは人間にとって必要不可欠なものです。
正しい知識や習慣をもって、健康な状態を保っていきましょう。
1.Watanabe Atsushi. Epidemiological investigation of malocclusion in Japan using the Index of Orthodontic Treatment Need (IOTN). 日本矯正歯科学会雑誌 68 (3), 142-154, 2009-10-25
2.Evensen JP, Øgaard B. Are malocclusions more prevalent and severe now? A comparative study of medieval skulls from Norway. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2007 Jun;131(6):710-6.
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