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オーラルフィジシャンチームミーティングにて発表しました



去る10月1日、東京にてオーラルフィジシャンチームミーティングが開催されました。オーラルフィジシャンとは、山形県酒田市ご開業の熊谷崇先生が広められたメディカルトリートメントモデルという診療システムをベースとする予防歯科臨床を行う歯科医師のことを指し、2006年からそれらの医療従事者が集まって学びを深める会としてチームミーティングは続いています。今回私は、「日本の歯科医療の問題点」という演題で発表を行いました。


チームミーティングレポートページ



予防歯科という言葉が広く浸透し、医院においても予防をしたいという主訴で来院される方が多くいらっしゃいます。口腔の健康を守る上で素晴らしいことですが、果たして予防歯科を提供する医療者は、本当に生活者の口腔の健康を長期に渡り維持できるような予防医療を提供できているのでしょうか。


歯を失う理由の多くはむし歯と歯周病であり、これらの疾患の発生、進行をコントロールすることが予防歯科には必要です。近年これらの疾患はWHOの疾患分類にてNCDs(非感染性疾患)に分類されており、疾患のコントロールにおける生活習慣のコントロールが重要視されており、定期メインテナンスにおける単独のPMTC(プロが行う歯のクリーニング)については効果は限定的であるという報告がなされています。定期的にお掃除をしてもらっている、というだけでは疾患を予防することはできないのです。


しかし、日本における予防歯科についての発信を見ると、「メインテナンスに通うことでむし歯や歯周病を予防できます」「定期的なクリーニングに通いましょう」「歯についた汚れは歯みがきだけでは落とせません」など、生活習慣のコントロールとは外れたところで予防の効果について言及する発信を多く目にします。これらを見ると、予防のためには医療の介入が必要であり、健康を維持するためには歯科に通うことが重要と言っているように見えるのです。


歯科に通わなかった人は皆口腔の健康を維持できないのでしょうか。そんなことは決してなく、ご高齢の方で歯科にほとんど通っていなかった方でも、むし歯も歯周病もなく高い健康状態を維持している方を目にします。彼らはもともと疾患が発生しづらい生活習慣を身につけており、そもそも予防のために歯科に通う必要がないのです。


予防歯科を謳っていながら、患者の疾患のリスクとなりうる生活習慣について改善する試みを行わず、ただ漫然と定期的なクリーニングのみを行う歯科医院が増えるとどうなるでしょうか。それらの行為は疾患の発生を止めることはなく、ただコストをかけて発生してくる疾患を早期に発見するのみに留まります。早期に発見したとしても硬組織は再生することがありませんので、大きく一回治療するか、細かく何回も治療するかという違いに留まり、疾患の進行を止めることはありません。


例えばこの行為を自由診療として行うのであればまだ正当性があります。歯のクリーニングに対してそれを望む人が自らその対価を支払うという行為であるからです。しかし、それをもし保険診療として行うのであれば、疾患の予防効果が薄いと思われる行為に対して貴重な社会保障費を使うということとなり、その正当性に関しては疑問が残ります。


ここに保険制度における一つの問題点があります。現在の保険制度においては、診療行為は対価報酬であり、成果を保証するものではありません。つまり、予防効果の有無に関わらず、行った行為に対して報酬が発生するということです。成果を保証しなくても良いのであれば、歯科医院は報酬を得るために手間のかかる生活習慣の改善を促すような取り組みを行う必要がなく、単純に自院に通ってもらえる人を多くすることで収入が増加することになります。この結果として、予防歯科に関する発信の多くが、あたかも歯科医院に通うことが疾患を予防するという誤認を与えるようなものであるというものになっている気がしてなりません。


国の社会保障費は増加の一途を辿り、現在の勤労世代はかつてより多くの税負担を強いられています。予防歯科が患者の健康に利することは疑いようがありませんが、質を担保するような制度の下で行われない限りは無為に社会保障費の増大を招く可能性があり、ひいては歯科界全体の評価を下げるものと危惧しています。



予防歯科という言葉が社会に浸透し、むし歯や歯周病の多くを予防できる可能性が増している今こそ、歯科医療者が襟を正し、本当に価値ある医療を提供する努力を続けるべきだと思います。その結果として日本人の口腔の健康状態が改善すれば、世界が羨む日本人のお口を実現することも可能でしょう。


40分の時間をいただき、若輩者ではありますが、現在の日本の歯科医療において、私が考える問題点、そして将来の展望をお話しさせていただきました。明るい未来を夢見つつ、通っていただける患者の皆様に確かな予防歯科医療を提供できるよう日々努めていきたいと思います。

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